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海軍生活(暫定版)
航海の模様

艦内組織
  →所轄
  →
  →分隊
  →
  →役員(當直将校、副直将校、甲板士官、甲板下士)
  →艦内警察(衛兵司令、衛兵副司令、先任衛兵伍長、衛兵伍長、機關科特務下士、番兵)
  →常務編制・戰時編制・戰闘配置
  →陸上
  →航空隊
食堂・居室
  →食班:下士卒
  →先任衛兵伍長室
  →准士官室
  →乗組文官室
  →士官次室
  →士官室
  →艦長室
  →提督室
衣糧
  →衣服
    →洗濯
    →裁縫
    →靴修繕
  →食糧
    →兵食:基本献立
    →賄:士官准士官献立(準備中)
    →割烹:提督献立(準備中)
  →酒保
その他
  →當直(準備中)
  →給與(準備中)
  →賞金
  →上陸(準備中)
    →上陸の順番:直と舷
    →番兵・巡察・憲兵、歸艦時刻
    →敬禮:禮式令と仁義、階級等級の識別、對陸軍
    →娯樂:喫茶・酒場・映畫演藝・女郎屋
    →下宿
    →受驗参考書
    →士官倶樂部
    →士官の遊興
    →妻帯
    →休暇
刑罰(準備中)
  →懲罰
  →海軍刑法
  →歴史上の刑罰
衛生(準備中)
  →傷病と治療・豫防
  →入浴
  →
  →害獸害蟲の驅除・掃除・消毒


★★艦内組織★★

【所轄】
軍艦は、ひとつの所轄 company (陸軍で云う「部隊」)です。艦長が所轄長(陸軍で云う「部隊長」)です。驅逐艦や潜水艦は、「艦」の名称がついていますが、軍艦ではなく補助艦艇の部類に入っています。數隻で「驅逐隊」や「濳水隊」を編成し、その司令が所轄長となります。陸上の海軍各官衙(役所)・學校も「海軍」と冠称していれば、ひとつの所轄となります。「海軍港務部」や「海軍病院」「海軍機關學校」の類です。
参考に説明しておきますと、軍艦や隊は、幾つか集まって「戰隊」 squadron を編成し、戰隊は幾つか集まって「艦隊」 fleet を編成します。必要ある都度、艦隊から臨時編成の分遣隊 flottila を派遣する事もあります。その際、分遣隊の指揮に適當する提督がいない場合は参加艦艇の先任艦長が臨時に「代将」 commodor となって戰隊を指揮します。また大規模な作戰時には艦隊を集成して「聯合艦隊」 combined fleet を臨時編成します。毎年度の大演習には、この「聯合艦隊」が編成されていますが、演習終了と共に解散します。

【科】
「所轄」 company は、幾つかの「科」 department で編成されており、その長 commander は科の名前を冠称して、「砲術長」(砲術科) commander in charge of gunnery、「航海長」(航海科) sailing master、「機關長」(機關科) chief engineer、「軍醫長」(軍醫科) principal surgeon、「主計長」(主計科) chief purser、などと呼びます。たいていは佐官ですが、所轄の規模や機能により将官や尉官の場合もあります。

【分隊】
「科」は「分隊」 division で編成されていて、その長は「分隊長」 division officerです。大尉 lieutenant が任命されますが、科長の佐官が兼任することもあります。大尉がいない時には中尉 acting lieutenant がなることもあります。「分隊」所属の士官・特務士官・准士官は「分隊士」 divisional officer として作業監督や下士卒の教育・人事・給養を分擔します。
「科」には「掌砲長」(砲術科) gunner や「掌帆長」(航海科) boatswain と云った、下士から進級してきたベテランの特務士官・准士官がいて、要具・倉庫管理や下士卒の教育訓練、士官に對する技術上の助言を任務としています。また古参下士(一等兵曹クラス)が「先任下士」として分隊内の規律保持と下士卆の勤務管理にあたります。
小艦艇では、異なる職種の科を合併して、ひとつの分隊とすることもあります。水兵團には何十という分隊があり、これを幾つかの「部」 department に纏めていますし、戰艦は20箇分隊内外となり、重巡洋艦で15箇分隊くらい、一等驅逐艦では5〜6箇分隊と云うように、分隊の數は所轄(官衙・團隊・艦船)の役割と定員により變化します。

【班】
「分隊」は「班」 group に分けられており、學校・水兵團では「教班」 class 、艦船では「食班」 mess group と、所轄の生活状態に合わせた班分けとなっています。「班」の人員は8名から15名程度までで、戰闘配置ごとに編成されます。例えば、大口径ニ聯装主砲の砲臺分隊では、ひとつの砲塔要員が砲塔右砲室・同左砲室・彈庫・火藥庫の4班に分かれています。なるべく同じ職種・配置で班を組みます。當直の交代や上陸をしやすくするためです。從って同じ分隊でも班の人數には、ばらつきがあります。ひとつの食卓を囲める人數で班を編成しますが、食卓にも大きさがいろいろあり全海軍一定ではありません。(帆船時代は砲甲板の砲と砲の間にできる隙間に机と長椅子を据えて食事をしたので、班はだいたい、ひとつの大砲を操作する人員と同じくらいでした。)「班長」は班で一番古手の下士がなります。下士が居ない時は古参の一等兵がなります。班長・下士卒ともに同じ食卓を囲み、同じ場所で吊床 hammock を並べて寝ます。

食班の食事風景

食卓を片付けて吊床(ハンモック)で就寝

最優秀食班に副長が焼菓子と名誉の盾を贈呈

【役員】
艦内當番のことです。航海科は除きます。航海要員は艦橋での當直 watch が忙しく、餘剰人員が無いからです。
艦内運用を取締る「副長」 executive commander が責任者で、「當直将校」 watch officer 「副直将校」「甲板士官」 deck officer が取仕切ります。實際の作業は、各科から下士卒が當番で出てきて、こなします。當番の手配と割振は、艦内警察の元締である「先任衛兵伍長」 master at arms がします。雑役の種類に合わせ、それぞれに當番があります。「傳令」(當直将校の傳令)「取次」(そのまた傳令)、「中下甲板掃除番」(先任衛兵伍長室の從兵)「電話係」「外舷係」「厠番」(トイレ掃除)「守燈番」「郵便使」「從兵」「端艇員」など、いろいろあります。
「當直将校」 watch officer は兵科・航海科の少佐・大尉級、「副直将校」は兵科・航海科の初級士官・特務士官・准士官が輪番で就き、日常のフネの運轉と運用を行います。副直将校は、初級士官・少尉候補生の實務訓練の場として最適です。小艦では士官の數が足りないので「副直将校」を置かないことがあります。中佐以上及び航海長は當直に就きません。
「甲板士官」 deck officer は、兵科の初級士官・少尉候補生・准士官・乗組生徒が就き、甲板を飛び歩き、艦内軍規風紀・整理整頓の點檢、日常の命令指示傳達をします。大艦では「上甲板士官」 upper deck officer 「中下甲板士官」 lower deck officer とありますが、小艦ではたった一人しか「甲板士官」がいないこともあります。年少者は監督者が身近に居る上甲板、古参になるに從って單獨で下士卒を相手にする中下甲板擔當になります。各「甲板下士」 deck petty officer が補佐します。更に「甲板下士」には「甲板助手」(一等兵の當番)がついています。
機關科は仕事の仕方が兵科・航海科とは違うので、當直将校の代わりに機關科士官が機關科當直士官と機關科副直士官に輪番で當り、機關・機械の運轉を日夜維持しています。

【艦内警察】
「衛兵司令」は艦内警備の元締で、兵科・海兵科の分隊長級士官が務めます。當直将校の指揮下にあって、朝夕欠かせない軍艦旗の揚げ降しから、艦内衛兵の指揮監督、来艦者の送迎などに責任を持ちます。大艦では海兵分遣隊長が専ら兼務します。
「衛兵副司令」は衛兵司令の手足となって働きます。番兵の配置や、禮式を実際に指揮します。兵科の分隊士が輪番で兼務します。
衛兵司令は衛兵のうちから要所に「番兵」 guard を出して立哨させます。これは専ら海兵科 marine の擔當です。乗組海兵分遣隊 marine detatchment の「衛兵長」(下士)以下、小銃兵・喇叭手・鼓手・笛手が當番で出てきて、「前甲板」「舷門」「時鐘」「彈火薬庫」「艦長室入口」「中下甲板昇降口」「前檣楼」「信號旗庫」「禁錮室」「救難浮標」など艦長の示す主要部署の警衛と「軍艦旗昇降」などの儀杖に當ります。(航行中の前甲板、舷門、停泊中の救難浮標、囚人不在時の禁錮室は、番兵を置かない)海兵が乗組まないフネは兵科水兵が代役をします。
「先任衛兵伍長」 master at arms (昔は白兵・小火器を管理し用法を乗員に訓練する武器係准士官であったが、斬込戰の機會が減少したため専ら艦内警察を専掌するようになり、のち専任を廃し優秀先任下士の兼務となった)は先任下士(一等兵曹クラス)から適任者が任命され、「衛兵伍長」 ship's corporal (旧称「警吏」)は、古参下士(二等兵曹以下)から任命されます。衛兵伍長は軍紀・風紀から艦内生活全般を取締ります。當直制なので、少なくとも先任衛兵伍長は2名以上、衛兵伍長は3〜4名以上が必要です。航海科の艦長端舟長 coxswain (戰闘中は艦長の護衛を擔當)は必ず先任衛兵伍長を兼務するのが傳統です。専用の先任衛兵伍長室・衛兵伍長室に從兵附で起居し、事務室では郵便の發受・上陸手配・當番の割振り・防火・清掃・不良兵の拘束や懲罰執行、夜の巡檢先導・その他艦内警察を取扱います。機關科は獨特の勤務様式があるので、先任衛兵伍長とは別に、機關科の事情をよく知る機關科特務下士が任命されていて、機關科内の警察を取扱います。

掃除

【常務編制・戰時編制・戰闘配置】
艦艇は様々な局面に依りもっとも適した人員配置を取るよう豫め計畫されています。艦長が副長と相談しながら決めるのですが、航海、停泊、警戒、戰闘、荒天、應急、救難など各状況に必要な配置がそれぞれ表になっていて、定位置と役割が各員に割當てられています。例えば戰闘配置になると非番の機關兵は對空見張員や機關砲員となり、從僕や給仕は機關砲給彈補助員を兼ねます。軍樂隊員は暗號補助員や負傷者救護員となります。艦長の命令一下、直ちに乗組員は決められた配置に就くように訓練されています。
そのため平和な日常生活では「常務配置」がとられ、索敵中は「警戒配置」となり、敵を目前にした時には急ぎ「戰闘配置」となります。
海軍が戰争状態になっている時は、戰時編制となって増員となります。損害を見越して1割程度の余剰人員が配置されます。
兵員も増えますが、艦艇も増えます。平時から予め指定しておいた民間船を武装させ、海軍から軍人を派遣します。外洋客船は假装巡洋艦ないし病院船に、貨物船は輸送艦に、漁船は哨戒艇に、とそれぞれ役割を担います。

【陸上】
艦隊勤務ではない下士卒は鎮守府の水兵團に編入され、陸(おか)の兵舎 barrack で暮らします。次の乗艦や配置を待つ者、病院から退院してきた者、應召してきた者、など雑多な連中が職種ごとに分隊・食班に分かれています。みな軍港を警備する防備隊の要員なので、日夜の勤務に出ます。教育中の新兵さんも大勢いますが、こちらは新兵分隊の教班に入っていて、猛訓練に明け暮れています。
陸上の所轄も全く艦内と同じ編成になっていて、當直将校や先任衛兵伍長なども揃っています。廊下は甲板と呼ぶなど、全く艦内で生活しているのと變りません。

水兵團の兵舎

洗濯場

烹炊場

酒保

歌唱場

病室

【航空隊】
航空科は全員が搭乗員で、これに必要な他科要員が加わって、航空隊を編成しています。他科には主なものとして機關(整備)、船匠(應急)、航海(航空信號)、海兵(警備、儀杖)、主計(給養)があります。
航空母艦や水上機母艦に乗組んで艦隊勤務をする隊と、陸上の飛行場で教育訓練をする隊に分かれており、1年くらいで互いに交代します。また航空隊に所属しない搭乗員もあり、これは艦艇搭載の偵察機勤務や鎮守府の沿岸哨戒飛行船勤務です。いちど配属になるとなかなか轉勤しません。
航空兵の食事は特別に配慮されており、陸上配置の暇な航空隊では搭乗員が肥満しやすくなります。これを防ぐために隊附軍醫は苦慮しています。


★★食堂・居室★★

  →食班:下士卒
  →先任衛兵伍長室:古参下士
  →准士官室:准士官
  →乗組文官室
  →士官次室
  →士官室
  →艦長室
  →提督室

【兵室】
昔は砲甲板の砲の間に食班ごとにハンモックを吊り、また食卓を据えて、生活していましたが(その前は露天甲板にごろ寝していた)、現在は砲塔式となって砲甲板が無くなったので、専用の兵室に詰め込まれています。艦首や艦底にあり、舷窓は浸水防止のため無いのが普通です。貧乏國海軍艦艇の下士卒居住環境は、非常な犠牲を強いられます。小艦では魚雷室や空倉庫に寝たリします。また潜水艦では人數分の寝床もなく、當直に上がっている兵の空いた寝床に非番の兵が寝ています。


吊床を隙間無く並べる兵室、船首部下甲板にある

【先任衛兵伍長室】 master at arms office
下士ながら先任衛兵伍長と衛兵伍長には、事務室に續く居室兼食堂・洗面所が用意されています。食事と從兵の當番がつきます。

【准士官室】 warrant officer's room
准士官の上等兵曹・同相當者が暮らす區畫で、メンバーの共同醵金で運營し、二人部屋の居室・食堂兼談話室・厨房・洗面所から成っています。廚宰・廚夫・給仕の他、准士官二人に就き從僕が一人附きます。ハンモックから平らな寝臺になり、食事も自分の給料で賄うので、兵員用より質がよくなります。

【士官次室】 gunroom
もともと掌砲長 gunner の管理する武器庫 gunroom の隙間に、少尉候補生 midshipmen の食班を設けて、若い紳士方 young gentlemen を掌砲長の監督下に置いたのが始まりです。掌砲長は艦内の砲要具を管理する職掌上、仕事のため頻繁に武器庫に出入りするので、脱線しがちな候補生たる若き紳士連の監督もついでに仰せつかったのでした。
少尉候補生・乗組生徒が食卓を共にし、吊床を並べて寝ます。特務士官・准士官は年配者が多く一緒になって騒いでおれないので、別に區畫を作って第2士官次室とします。寝臺も平らです。しかし小艦艇では次室士官の人數が少ないので、一緒くたにひとつの士官次室で老若同居となります。カーテンで仕切って形だけ第2士官次室をつくる艦もあります。
少尉以上は二人部屋の居室を貰い、ちゃんと平らな寝臺で寝ています。候補生以下は大部屋にハンモックです。士官次室は居室の他に共用の食堂兼談話室・厨房・洗面所から成っており、メンバーの共同醵金で運營しています。幹事 captain of gunroom が共用の食糧や家具・日用品を購入し、また士官次室専務の廚宰・主厨・廚夫・給仕の謝礼を支拂います。専用の酒蔵もあります。料理や飲物、洗濯代、制服の修繕など注文したもの全ては廚宰 steward の傳票に署名し、それは主計科に廻って帳面に記入され月末に纏めて給料から引落しになります。中には給料以上を費消して、主計を拝み倒して前借をしたり、同僚から借金する次室士官もあります。
廚宰 steward、主厨 cook、廚夫 assistant cook は主計科員で所定の俸給を海軍から支給されていますが、この他に士官次室の共同醵金から次室士官のメンバー分だけの謝禮金がでて、大艦船になると大變に實入が良くなります。給仕 waiter boy は軍港の口入屋の世話で乗艦してくる私傭乗組員なので、士官次室の共同醵金から給金がでます。これもやはり給金以外に謝禮が出るうえ食膳以外の用事を頼まれると、そのつど駄賃を貰いますから、魅力的な職です。
この他に次室士官には從僕 cabin boy が付いており、身の廻りの世話をします。少尉以上は一人に就き從僕一人、少尉候補生以下は二人に就き從僕一人です。寝具・衣服の整頓・取替、居室の掃除、洗面の世話、使走り、武器の手入、が主な仕事です。給仕と同じく私傭乗組員ですが、氣轉が利いて、武器の取扱もでき、海軍生活に詳しくないと勤まらないので、優秀な先任年少兵から抜擢任命されることが多いのが實情です。水兵が從僕を勤める場合は任期が一ヶ月單位で、勤務成績に大幅な加算を得られます。中には倹約のため陸者(おかもの)の從僕を共同で雇入れたり、まったく從僕を持たない次室士官もいます。

次室士官居室(中少尉・特務中少尉・准士官は二人部屋が普通、候補生・生徒は大部屋のハンモック)

【士官室】 wardroom
海賊船時代には艦の上甲板に鹵獲品庫があり、貴金属・寶石・美術品などを収蔵しましたが、征途に就く時には中が未だ空なので、士官の衣裳箪笥 wardrobe を置いて居室に使用しました。それが現在に至るまで引継がれて、士官室 wardroom となっています。
分隊長(大尉)以上の士官が居住します。分隊長心得・代理の中尉も仲間に入ります。
こちらは一人部屋の居室である以外は、運營の仕組も、士官次室と同じです。妻帯者が多く、静かな雰囲氣が特徴です。士官室専務の廚宰・主厨・廚夫・給仕は士官次室のそれより格が上で、萬事につけ役得があり、謝禮も割増となります。それに見合うだけの技倆が必要ではありますが。
上級士官の從僕は、主人が氣に入り、同時に從僕本人も希望すれば、何度も任期を更新して長く勤められます。そうすると從僕は本業の水兵修業に遅れをとることになるので、主人は眞剣に從僕の身の振り方を考えてやらなければならなくなります。そのため餘程あちこちに縁故のある士官でなければ、長く年少兵を從僕にしておくことは難しいのです。しかし有力な士官は、從僕に暇を作って勉強させ上級の學校に入れて、海軍よりも有利な職業に就かせる算段ができます。特に兵科の副長クラスになると艦長となった時には轉任先に從僕を伴っていくことができます。副長が艦長となれば、從僕も艦長從僕となり、兵科士官學校に入る資格ができ、そしてその學校は身體檢査と提督・艦長の推薦があれば入れますから、抜擢された年少兵は紳士の身分を保證されたことになります。

士官居室(分隊長以上は個室、分隊長は通常は大尉だが、缺員時には中尉が任命され個室を與えられた)

【文官室】 civilian room
乗組文官は軍属のうち高等官・判任官を士官待遇とするもので、士官室同様の設備となっています。文官の生活は、當直のある士官と違うので、別室となります。高等官は一人部屋、判任官は二人部屋で、平らな寝臺。小艦では士官室・士官次室と同居になることもあります。

【艦長室】 captain's cabin
上甲板の広い一郭を占めて、艦長公室(執務・會議・應接用)・秘書室(艦長秘書以下事務要員が詰める)・居室(寝室・洗面室)・食堂が艦長専用として用意されます。海圖室はすぐ隣で、いつでも参照できるようになっています。
艦長公室の外の廊下には、昼夜を分かたず海兵の衛兵が着劔小銃で武装し立哨しています。
帆船時代は必ず艦尾を艦長室に充てました。硝子張の大きな展望窓をしつらえた広い區劃を上記にあるのと同様に隔壁で仕切って使っていました。上階の露天甲板にある散歩用のスペース(艦尾楼)も、艦尾以外には置きませんでした。それというのも兵用厠が艦首にあり、帆船は必ず艦尾から風を受けて走るので、衛生上も具合がよかったからです。 艦長専属の廚宰・廚夫・從僕・給仕は、艦長および艦長が招待する會食の客からの謝礼が多額にのぼり人の羨む配置です。艦長は原則として一人で食事をしますが、毎晩のごとく士官の主だった者(時には有力者の子弟である候補生・生徒や、友人の乗組文官)を正餐に招いて談話を共にし慰勞する慣習があります。料理と飲料も優れたものを揃え、材料は専用倉庫に貯蔵してあります。また家畜を飼って、新鮮な卵や肉を食卓にのせるよう工夫することもあります。それらは總て艦長の私費で賄われます。時々士官室の連中からいつもの御返しに招待を受けることもあり、料理や酒の等級はだいぶん落ちるけれど、そう云う時の艦長は上機嫌です。裕福な艦長は、家具調度も私費で整えます。
艦長從僕は掌砲長と同様に、艦長が轉任の際に伴っていくことができます。年少兵のうちで、艦長ないし艦の危急を救った者や、優れた成績の者は、艦長専属の從僕に抜擢任命し、兵科士官學校に推薦して士官の道を歩ませます。しかし、なかなか艦長の厳しいお眼鏡にかなう年少兵はいません。しかも紳士階級の海軍士官を志望する次三男が有力者のツテを頼って、この艦長從僕に志願してくるので、年少兵にはなかなか割込む隙がありません。

艦長室captain's cabin(寫眞と植物趣味のある艦長)

艦長室(實務家の艦長)

帆船時代の艦長室

【提督室】 admiral's cabin
艦長室と同様ですが、それより広く、國内外の賓客を迎える必要上、たいへん内装が豪華です。家具調度は提督個人の財布から買い調えられます。

提督室(来客と面談中)


★★衣服★★ cloths

海軍士官は服装に五月蠅いので有名です。外國と接触することが多く、折衝や儀典・社交など外交官としての役割も擔っているからです。いつも禮服を備え、染みひとつ無い軍装で勤務します。下士卆も儀典や上陸では、一張羅を着込みます。そのため衣服の手入は入念です。

【洗濯】
艦内に軍属の洗濯屋 laundry shop が開業していて、洗濯・アイロン掛けを引受けています。真っ白の夏用制服の染み抜や綻び修繕、釦の付替などもやってくれます。支拂は酒保と同じで、給料から天引きです。下級の下士卒は、洗濯日に自分で洗濯します。副長の設定する露天甲板の洗濯場所でバケツ1杯くらいの真水湯の配給があり、これと海水湯を併用して事業服や枕カバーなどを洗います。貧乏な士官や妻子持ちの下士は、從僕に手間賃をやって洗濯させる者もありますが、餘り感心したことではありません。長い航海で補給も無い場合は、真水がどんどん貴重になってきて、洗濯日も滅多になくなり、みな薄汚れた格好となります。けれども、どの水兵も、いざという時のために一張羅の洗い立てを一着、よそいきにしまってあります。晴れの儀仗や、不意の入港で上陸外出ができる時、戦闘などのために普段は袖を通さずに大事にとってあるのです。

艦内洗濯屋のアイロン作業場

【裁縫】
ちょっとした綻びならば、水兵は自分で針を持って繕ってしまいます。階級章や名札も自分で留めます。士官の分は從僕がします。艦内には主計科衣糧長の配下に縫工室があり、ミシンを持った仕立職人 tailor が乗組んでいます。信号旗やカンバス、士官の階級章、禮服と、なんでも繕い、仕立て直しもやります。もちろん私用の分は手間賃を取ります。

【靴修繕】
艦上では餘り靴底が減りませんが、靴の豫備を沢山載せているわけではないので、破損した靴は修繕して何度でも履きます。こちらは修繕代無料です。主計科衣糧長の配下に靴工室があり、靴職人 shoemaker が乗組んでいます。主計長は靴職人に出来高拂で手間賃を給料に上乗せします。
靴の手入は、水兵は自分でやり、下士は班の當番にやらせ、士官は從僕がします。班全員の靴を並べて靴墨を塗りこんでいる當番は、たいていヘマをして罰直代わりに奉仕している水兵か、さもなくば最下級の年少兵です。


★★食糧★★ provisions

食糧は、主計長 purser が船艙の格納量を睨みながら、仕入れます。豫定される航海日數分だけの堅麺麭・塩漬肉・乾燥豆・燕麥・牛酪・バター・砂糖・檸檬・麥酒・ラム酒・煙草は必ず整えます。この他に、小麥粉・鹽・胡椒・油などを主厨 ship's cook の要求に従って加えます。
士官・准士官には下士卒と同じ食糧配給がありますが、これに加え私費で共同購入した食糧・酒類を専用倉庫に貯蔵し、士官食堂配属の廚宰steward が管理します。また食堂ごとに共有の家禽を飼養し、卵を採ったり、乳を搾ったり、時には屠殺して精肉し、食卓に華を添えます。家禽の面倒は兵員烹炊室の廚夫の一人が兼務屠夫 butcher として擔當します。この仕事には家禽所有者の各食堂の醵金から手當が出ます。
烹炊は、艦長室・士官室・士官次室・准士官室ごとに各厨房 galley で配属廚夫 cook が行い、下士卒は纏めて兵員烹炊室の主厨 ship's cook と廚夫 cook's hand がします。廚夫には、麺麭焼(造麺夫baker)や精肉(屠夫butcher)の兼務配置を持つ者がいます。

主計科の備品:害獸(鼠)捕獲用の猫

【兵食:基本献立】
下士卒の食班 mess では當番 mess cook を立て、配膳をします。當番は烹炊所から食事を受取り、食班まで運んで食卓の鉢に盛付けます。鉢は、堅麺麭・肉・煮込汁の種類があり、班員の銘々の皿に分配します。コップには水、或いは配給の麥酒・水割酒・果汁が注がれます。全員に均等に盛付けたかどうかで諍いが起こるのを防ぐため(殊に新鮮な野菜や肉が出た時は)、班員の一人が目隠をして、これは誰の皿と云います。廚夫の乗組まない小艦艇では、この食卓當番が簡單な罐詰料理をします。食後に食器を纏めて洗うのは當番の役目です。當番と云っても、最下級の新参がなるので、古参兵は何もしません。

晝食の準備(肉汁を配る當番)

☆ 堅麺麭 biscuit or hardtack
雑穀粉(麥・米・玉蜀黍・豆など)・骨粉・水を練って重焼にした円形の乾パンで、數箇の孔が開けてあります。これは通風のためなのだそうですが、大量生産する時の焼具に突起が並んでいて、材料がずれないように支えたためとも云います。
新しいものでも非常に堅く、更に古くなると歯が立たなくなります。水兵はこれを歯毀れ teeth break biscuit と呼びます。食べる前に堅麺麭で食卓を何回もコンコン叩くのは、通風用の孔の中にコクゾウ蟲(Biscuit weevils: Stegobium paniceum)の親蟲や子蟲の大きなのが潜んでおり、これを追出すためです。榮養補給のために一緒に食べてしまう者もいます。味はちょっと苦いと云ふことです。何年もたった堅麺麭は金槌で粉々に砕いてスープに混ぜたり揚物の衣にして食べます。

ビスケット・コクゾウ蟲

☆ 麺麭 bread
兵員烹炊室 ship's galley は、堅麺麭以外に、なるべく自艦特製の柔らかい麺麭を焼いて乗組員を喜ばせますが、長い航海が豫想される場合は、食材を節約するために、主計長が堅麺麭に切替えます。また荒波で艦が動揺する時は、防火のため不要不急の大量の麺麭焼はすぐに中止されます。麺麭焼器は今世紀初頭に艦船備付となりましたが、鎮守府軍需部には向う何十年分もの堅麺麭のストックがあり、これを消費しなければならないので、下士卒が柔らかい焼きたての麺麭を口に出来る機會は、いまだに極く限られています。また水雷艇や潜水艦など麺麭焼器を持っていない小艦艇では艦艇長以下乗組員全員が堅麺麭しか食べられません。

☆ 塩漬肉 meat
新鮮な肉は無く、専ら牛肉・豚肉の大きな塊を炙って燻製にし樽に詰めて塩漬したものです。昔の食班當番は、自分の班の肉を配給されると、これを袋に入れて班の番號(何分隊何班)を刻んだ金属札を附け烹炊室の主厨 cook に預けました。これを大釜に各班一緒に入れて煮てあるのを、食事の度に當番が受取り、必要な量を切取って食班の食卓に載せます。今では兵用の肉は全艦一緒くたに煮て烹炊長が均等に各食班に分配します。肉と云っても塩漬で保存した儘一年以上經っているものもあり、殆ど肉の味がしません。靴底並の堅さになっていて、肉汁は無く、乾涸びたベーコンかビーフジャーキーが両腕で抱えるくらいの大きな塊になっていると云った代物です。煮ると多少軟かくなりますが、獨特の臭みは抜けません。冷蔵装置が普及する前のフネでは、塩漬肉の樽の上に生魚をおいておき、肉に湧いていた蛆蟲がこれを食べようとして樽の中から誘き出されてくるよう工夫しました。魚にたかった蛆蟲は海中に捨ててしまいます。魚肉を代わりに支給することもありますが、これは艦隊によって違っており、魚肉を常食としない地方の出身者が水兵となる第1艦隊では叛亂を誘發するとしてタブーになっています。いっぽう魚肉を日常食に取り入れている地方の出身者から成る第2および3艦隊では、干した塩魚が肉の代用として支給されることがあります。

烹炊室の大釜

☆ チーズ、牛酪 cheese & butter
長い間倉庫に入っていたチーズとバターは、黴が生えたり固くなりすぎたりするので決して美味しいものではありません。現在は冷蔵装置が普及してきたので多少ましになりました。しかし冷蔵装置の無い小さな艦艇では依然として不味いものの代名詞となっています。殊にチーズは包装なしで貯蔵されたので柔らかいうちは蛆蟲が湧きやすく、船に乗せたチーズには足が生えると昔は云われていました。これは蛆蟲が大量に湧いてしまい倉庫の中でチーズが勝手に動いて歩き回っているように見えるからです。最近は冷蔵装置や缶入り包装が普及したので、そういう心配はなくなりましたが、乾燥や黴の問題はまだ解決されていません。カチンカチンになったチーズの塊で船や動物の精密な模型を作るのは船乗りの趣味として有名となっています。チーズはその儘食べる者は餘りなく、熱い粥やスープに混ぜたり、焼いたりして食べます。バターは酸っぱく腐敗してしまうので、その代わりにオリーブ油を支給するフネもあります。

☆ 野菜 greens & roots
新鮮なものは補給後の1週間くらいしか食べられません。すぐに傷んでしまいます。あとは酢漬ないし日干の野菜か乾燥豆です。寄港地に入ると採りたての野菜や果物が食べられますが、大抵の艦隊勤務は何ヶ月も大海原を遊弋するので、生鮮食品の補給は無しと考えていた方がよいです。たまに給糧艦が補給してくれますが、これとて航海中に1回もあれば良い方です。

☆ 粥、煮込汁 porridge & soup
兵員烹炊室で配給される食罐には、茹でた乾燥豆ないし燕麥が肉汁と一緒に入っていて、これを各自の皿に分配すると、皆たいてい砕いた堅麺麭や牛酪(チーズ)、バター、砂糖を入れてゴタゴタにして食べます。燕麥の代わりに米が支給されることもあります。

☆ 檸檬果汁 lemonade
壊血病を防ぐため、檸檬汁を水割したものを毎日飲ませます。吝嗇な艦では、安価なライムで代用します。ライムは檸檬の半分以下の藥効しかありません。どちらも水割酒に混ぜて砂糖を入れて飲むのが普通です。もし果汁が不足した場合は、乾葡萄や乾無花果が配給されます。

☆ 麥酒、水割酒 beer & rum ration
兵員烹炊室は、出航後1週間程度は麥酒ないし水割葡萄酒を配給します。瓶詰ではなく、樽に詰めた生ものなので、餘り日持ちしません。麥酒は氣の抜けた麥芽飲料に、葡萄酒は酢に成りかかっていて、どちらも最初は酒精分が15%くらいまでありますが、日が立つにつれて段々薄くなっていき、殆ど無いか3%くらいまで落ちてしまいます。そこで麥酒と葡萄酒の貯蔵が無くなると、船乗愛用の安価なヘイビー・ラム酒(糖黍汁を蒸留し樽で熟成させるため芳香高く琥珀色、甘味強し)を配給します。生(き)の儘だと酒精分40-50%と強すぎるので、水で3倍に割り(grog)、一日に就き1パイント(pint=473ml=普通のコップ2杯分)を半パイントづつ2回に分けて配給します。2回は多すぎると云う意見が海軍本部にあって、ラム酒委員會ができ、現在調査中です。精密機器を操る職が増えてきた為でしょう。數年後には1回に減量となる可能性大です。この配給を受けない時は、給料に酒代が加算されます。海軍發足当初は麥酒の代用とて7倍や5倍の水割でしたが、その後2倍となり、ついで今の3倍に落着きました。慶事・戰捷・重勞働など必要ある時は、艦長の命令によりラム酒が増配となります。帆船時代の水夫は先の見えない奴隷同然の過酷な勞働だったので、適度に飲酒させないと鬱屈してしまうからです。この配給が無いと、しばしば暴動が起きました。現在も此の習慣は續いております。配給時刻は午前10時より午餐前までと、午後4時から晩餐前までの配給です。勤務の為すぐに飲めない時は、各自が瓶などに保管しておき、當直明けや就寝・午睡前、夕食時に食欲増進劑や睡眠劑代わりに飲みます。

☆ 煙草 tobacco
これも船乗の必需品なので、必ず配給されます。休憩の號令は「煙草盆出せ」と云ふ事からも、煙草が水兵の生活と切り離せないのが分かります。煙草が缺配になると、やはり兵員は鬱屈して暴動の遠因となります。
年少兵にも給與規則上、煙草と酒の配給がありますが、主計長が子供には毒と云ふ口實で前もって一手に買取ってしまい、代金を給料に加算します。年少兵は、これを小遣にして酒保からジャムや飴などの甘味品を買います。
配給の酒・煙草は、しばしば兵員の間で物々交換の代用貨幣となります。

☆ 一週間の献立 menu
どんなものを食べているのでしょうか。メニウは限られており質素かつ單調です。

【例1】

主食および飲料として
毎日 堅麺麭1ポンド・檸檬水若干・麥酒1ガロンないし水割ラム酒1パイント
(1ポンド=453g=1斤、1ガロン=3.8リットル=ビール大瓶6本分弱。

副食として(ただし、これは配給日を示しており、實際には烹炊長が兵員烹炊室に配給食糧を預かり、何日かに分けて調理され食卓にのる。土曜日は牛肉2ポンドしか食べられないと云うわけではない。)

日曜 豚肉1ポンド・豌豆半パイント(0.28ℓ=236.5g)
月曜 燕麥半パイント・砂糖2オンス(56.7g)・牛酪2オンス・チーズ4オンス(113.4g)
火曜 牛肉2ポンド
水曜 豌豆半パイント・燕麥半パイント・砂糖2オンス・牛酪2オンス・チーズ4オンス
木曜 豚肉1ポンド・豌豆半パイント
金曜 豌豆半パイント・燕麥半パイント・砂糖2オンス・牛酪2オンス・チーズ4オンス
土曜 牛肉2ポンド

朝食は燕麥粥(オートミール)、晝夕とも麺麭に肉と豆の煮物で、チーズやバター、砂糖がつきます。間食(午前・午後・夜に各1回)に茶、菓子、乾燥果實、煙草などが配給され、嗜好品の不足分は各自が酒保で購入します。

【賄:士官准士官献立】
士官准士官は兵食を支給されますが、この食費は食事ごとに傳票が主計長に廻って給料から天引の仕組となっています。しかし實際は専用食糧や家禽を私費で共同購入します。それが不足した場合のみ兵食の支給を受けます。士官室・士官次室の廚宰が食品庫を管理し、主厨と廚夫が調理して給仕が配膳します。
士官室(分隊長以上の士官)、第1士官次室(中少尉・候補生・生徒)、第2士官次室(特務中少尉)、准士官室(准士官)、文官室(判任官以上の乗組文官)ごとに別々に食堂を持っています。
しかし中少尉・候補生・生徒は給料が安いので、また特務士官も家族持ちゆえ諸事節約しなければならないので、いつもは兵食を摂っており、これにジャムや葡萄酒、卵、香料など、ささやかな贅沢品を加えるのみです。士官次室食堂・准士官室食堂は兵員居住區と全く變わらず、質素な長机しかありません。小艦艇では一次・二次士官、准士官、文官などの食堂はひとつの大部屋で、必要に応じカーテンで仕切ってあるだけです。
分隊長以上の士官(大尉以上)は、さすがに豪勢な士官室食堂を持っていますが、これとて週1回程度の正餐會以外は、食卓に載るのは兵食に近い非常に質素な食事となります。

士官食堂

艦長は専用の廚宰・廚夫・給仕を持っており、艦長室食堂があります。一人で食事をしますが、適宜、晩餐會を開き士官・候補生・生徒や文官を椅子の數だけ招待し、これを順番に繰返して部下の幹部全員と親交を深めるのが慣例です。艦長廚宰は食品庫を嗜好品で満たし、酒蔵に上等の葡萄酒を貯蔵します。艦長主厨は兵員烹炊室の屠夫に頼んで家畜を飼い、新鮮な卵や肉を常に用意します。魚は餘り食べません。この艦長用食糧は總て艦長の私費です。こうして揃えた特別食糧は、ほとんどを晩餐會で部下が飲み食いしてしまうので、多くの艦長は普段は兵食を食べているほうが多いようです。長航海で艦長用食糧が尽きた時には、晩餐會も兵食の堅麺麭や塩漬肉を肴に強いラム酒を飲むと云う海賊時代の有様に先祖返りしてしまいます。

艦長食堂の正餐用食卓

(艦長晩餐會の食卓モデル。私費で購入貯蔵しメニウに載せている)


★★酒保★★ canteen

私用の嗜好品や日用雑貨は酒保で買入れます。主計長が商品の指定を行い、酒保長 canteen manager という名前の軍属が自分の資本で仕入をします。繪葉書から文房具、ジャムや飴から時計・煙管、歯磨・手拭・下着・洗濯挟まで、大抵の生活用品があります。年少兵から艦長まで、ここで必要な品を調達します。
昔は酒保が艦内になく、主計長が乗組員に直接、品物を売る仕組になっていました。品物の仕入は總て主計長の私費で賄われたので、乗組員は主計長が不當に儲けているのではないかと、常に疑惑の目で見ていました。主計長が自分の財布から保證金を積んで、艦の一切の衣糧・調度・燃料(兵器を除く)を仕入れ、これを支給する際に乗組員の給料から天引するという制度は、現在ではなくなっています。その代わりに酒保長が雑貨でそれを行います。酒保長は手數料を主計長に支拂い、これは艦の共同基金となります。
食班で買いたいものを傳票に記入しておくと、酒保當番がそれを持って酒保の窓口にいる助手 canteen assistant に渡します。すると品物が纏めて渡され、傳票が庶務室に廻って代金は各自の給料から引落とされます。准士官以上は食堂の廚宰がメンバーの買物を纏め、傳票を酒保に廻しておき、給仕が取りにいきます。酒保商賣は航海中の獨占事業なので、大きい艦船になるほど、酒保長は手數料を主計長に、給料を酒保助手に支拂っても、自分の懐に入る純益は魅力的な額にのぼります。


★★賞金★★ prize money

敵對した輩の艦船・兵器・積荷を鹵獲し最寄の軍港ないし根拠地まで回航すれば、海軍から乗組員に賞金がでます。海軍は、鹵獲品を仲買人 prize agent に賣却させ、仲買人の手數料を差引いた賣却代金を乗組員に鹵獲賞金 prize money として分配します。これは海賊船時代から續いてきた慣習で、當時はもっと細かい分配方を出航のつど乗組員全員の合意で取決めていましたが、海賊團を海軍本部の配下に置いた後の1708年に統一規定ができました。次三男で家産を継げない貧乏人が多い士官には、貯蓄のよい機會です。乗組員は賞金目當てで志願してくるのが多く、通商破壊任務に就く軽巡洋艦や密貿易取締の沿岸警備艦艇に志願者が集中するのも、その所為です。

【賞金分配率】
(1808年以降。括弧内は1807以前。乗組文官軍属は各官階相當の戰闘配置を志願した者を含む)

艦艇長       3/8(3/8)
士官・特務士官  1/8(1/8)を均等分配 
准士官以下    4/8(准士官・下士官 1/8、 兵卒3/8)を均等分配
艦艇が所属する隊司令・戰隊司令官・艦隊司令官・視認距離内にある他艦  艦艇長賞金よりその 1/3(1/8)を均等分配

小艦艇であればあるほど、乗組員數が少ないので、一人當の分配賞金も増えます。


★★上陸★★

【上陸の順番:直と舷】
土日祝日ごとに上陸が半舷づつ交代で許可され、これを「半舷上陸」と云います。乗組員の半數は必ず艦艇に居残っていて、何時でも航行・戰闘ができるようにしてあります。吊床に分隊・班・直の番號が大きく記してあり、その末尾の直番號が奇數だと右舷直、偶數だと左舷直となります。同じ班には半數づつ右舷直・左舷直が配置されています。この両直のうちどちらかが上陸し、残った直は留守番となります。上陸時間は朝御飯の後から夕御飯の始まるまでです。
さらに4日ごと(下士は1日おき)に外泊「入湯上陸」が許可されます。最下級兵には外泊が許可されません。

番兵・巡察・憲兵、歸艦時刻
艦艇には當直将校の指揮下にある番兵が要所に立哨しており、上陸の際に通らなければならない舷門の天幕にも必ず海兵が着劔小銃を携えて立っています。小さな艦艇では海兵がいないので代わりに水兵が陸戰隊の服装で番兵をしています。
舷門から端艇に乗って先任者の指揮で全員がオールを漕ぎ港内を横切って上陸すると、そこにも海兵隊の番兵が立哨しています。街には腕章をした将校・下士卒若干名からなる巡邏隊が見廻っていて、酔拂や喧嘩口論など軍紀風紀の違反者を取締ります。抵抗すれば警棒で叩かれ、屯所の留置場に放り込まれます。巡邏には艦艇から派遣されるものと、港内の防備隊が用意するものとがあります。不意の出航命令が出て上陸が取消しになる時には、この巡邏隊が増強され、酒場や娼館、風呂屋、下宿屋など水兵の出入りしそうな場所を隈なく臨檢して、乗組員に帰艦命令を徹底させます。
巡察隊は海軍刑法や普通の刑法に触れる犯罪者ないし被疑者を捕縛して屯所に留置しますが、それ以降は憲兵隊に引渡します。軍港には大尉ないし少佐を長とする陸軍の憲兵分隊があり、その隊長は檢察官も兼ねます。海軍には憲兵がないので、陸軍の憲兵が海軍も管轄します。憲兵隊に捕まって、そこの留置場に入れられ、取調べの結果いよいよ容疑が固まり起訴が決まると、鎮守府や要港部の海軍法務部から法務官が出張してきて豫審を開始し、證拠・證人集めをして書類を整え、軍法會議に廻す準備をします。
餘り羽目を外して決められた歸艦時刻に遅れると、「後航發罪」に問われ、これは立派な海軍刑法犯となってしまいます。從って各艦艇は歸艦時刻が迫ると自前の巡察隊を派遣して、街を巡らせ下士兵を拾って歩きます。最後の端艇に乗遅れると、遅刻者は必死になって民間の船頭を雇い漕ぎ戻ってきます。
士官・准士官・上級下士は汽艇に乗って往復しますが、それに乗り遅れ、やはり民間の快速ボートを雇うことが多くあります。

敬禮:禮式令と仁義、階級等級の識別、對陸軍
海軍禮式令に依れば、軍人どうしが出會った時は、階級が下級の者が先に上級者に敬禮します。同級者どうしは、互いに競って敬禮することになっていて、どちらが先になっても後になっても構いません。兵卒はそれ自体ひとつの階級で、何等水兵と等級がついていても、それは階級ではありません。しかし兵卒どうしの仁義があって、等級が下の者は上級者に先に敬禮をすることになっています。そこで最下級の五等兵は歩いていて出會った軍人にはどれも先に敬禮しておけばよいことになります。一等兵を除き兵卒には階級章がありませんから、袖の年功章の線數で識別します。年功章の無い兵卒どうしは相手の顔つきや體格を見て古そうだったら先に敬禮します。

【娯樂】
水兵は上陸すると先ず艦上では得られなかった娯樂を貪ります。
取敢えず下宿に轉り込み、平たい固い寝床で睡眠を貪り、次に風呂屋に繰出し、茶を飲みながら熱い湯で入浴して潮氣を拭います。
航海中は粗食に耐えていたので、街の食堂で豪華な定食を摂ります。水割のラム酒と薄い麥酒ばかり飲んでいたので、葡萄酒や火酒を大量に呷ります。
次に娼館に時化こみ長い間出てきません。
餘裕があれば映畫や寄席に行きます。寄席では曲藝や寸劇を演じますが、扇情的でないと水兵さんにはうけません。
先ずこう云う事柄をすっかり濟ませてからでないと、勉強したり故郷に手紙を書いたりしません。
軍港には遊郭があって、警察署の出す鑑札を持った公認娼婦が水兵さんと遊んでくれます。警察醫は定期に健診を實施して花柳病の蔓延を豫防します。この他に鑑札なしの私娼があって、こちらは非合法です。大抵は私娼窟の主人が警察の風俗係の刑事に賄賂をあげて、平穏に營業しています。個人營業のものもあり、他の職と兼業している者も多くあります。海軍は花柳病の蔓延を事のほか心配して、衛生講話や防具の無料配給や衛生檢査を怠りません。

水兵用定食屋

寄席の踊子

【下宿】
水兵や下士は、軍港に共同で部屋を借りており、上陸すると、そこを根拠地として、のんびり休養したり、勉強したりします。下宿には種々あって、陸上勤務者が日曜日など休日に息抜きにくるもの、水上勤務者が上陸の折に根拠地とする賄い附き、家族持が女房子供を置いておく自炊旅館じみたもの、士官が暮らす食事つきホテルみたいなところ、などいろいろです。どこに住んでいるかによって暮らし向きが分かるので、みなあまり下宿の所在を明かしたがりません。

大きな下宿の建物

喫茶室

讀書室


【受驗参考書】
下士卆が進級するためには實施學校に行かなくてはなりません。普通科・高等科と進み、能力さえあれば准士官に任官することも可能です。實施學校には、いちおう入學試驗があり、そのため受驗勉強をしなければなりません。試驗によく出る想定問題集(解答と解説附)が軍港の酒保や民間書店で市販されており、それを購入して下宿や艦内で勉強します。専門の試驗の他に、讀み書き算盤も重視され、また歴史や理科の教養も重視されます。そのための自習書もいろいろあり、練習問題附の内容は段階をおって懇切丁寧に書かれてあるので、なまじ中學校にかようより學力は向上します。志願兵ならば在役中に必ず一冊は買いますから、隠れたベストセラーです。

【士官倶樂部】
軍港には士官用の倶樂部があり、瀟洒な建物の中に食堂・宿泊室・娯樂室・圖書室・賣店・仕立屋・靴屋・理髪店・保險代理店・共濟組合などが入っており、大抵の用は足りるようになっています。贅澤な人は、街の専門店で凝った品物を誂えますが、拿捕賞金でも入らない限り士官は貧乏が相場なので、専ら金持ちの艦長や提督級がそういうところのお客になります。

【士官の遊興】
士官は上陸すると先ずご婦人方を招待して宴會をします。次に氣に入った婦人を伴って観劇や舞踏に行きます。賭博場に入り浸る士官も多數おり、そこにも魅力的な御婦人方が屯しています。それからは本人の腕次第です。なかには宴會にも出ず、直接に高級娼館の客となり、面倒な所作は一切省略する猛者もいます。妻子持ちは家庭で一家團欒を樂しみます。艦長や副長クラスの高級士官は、有力者との社交に忙しく、表敬訪問に飛び回ります。また晩餐會や舞踏會など面倒な招待が目白押しとなっており、あたふたと忙しい毎日を送ります。

【妻帯】
軍人の常で、結婚は遅く、特に海上勤務は大抵が獨身者です。陸上勤務になると、お嫁さんを見つける確率が高くなるので、水兵や下士でも結婚して子供のいる者がいます。士官も大尉になると、利にさとい人は有力な提督の娘や姪をもらって出世の糸口を見つけます。また待命や學校附、官衙勤務になってしまうと、暇を持て餘して、つい結婚してしまう人もあります。女性にとってみれば、船乗りは變人ばかりですが、古参下士ともなると年金持ちで(本人が亡くなっても寡婦年金がある)、どう轉んでも最低限の暮らしは出来るうえ、生活が簡素で衣食住ともに五月蠅いことを云わないし、陸上(おか)ではぼんやりして妙に大人しいので扱いやすいため、人氣があります。士官や准士官ともなると世間體もよく、知識が變に偏ってはいるけれど、なかなかの教養もあるので尚更です。
一軒の家を構えるのは、艦長クラスの高級士官以上で、士官といえども妻子は軍港の下宿住まいです。これは便利だからです。轉勤があるし、軍港は狭く住宅の敷地が不足しているため、賄い附下宿が却って經濟です。

一等水兵の結婚


★★刑罰★★

【懲罰】 punishment
海軍刑法に触れない軽微な犯罪や規律違背は、艦長や所轄長が即決して懲罰にかけます。
軽いものは、上陸禁止・禁錮があり、重いものには、降等・横静索吊(帆船のみ)・公開の鞭打、があります。14歳以下の下士卒(乗組生徒を含む)には懲罰は適用されませんが、代りに、大砲縛(砲身をベンチ代りにして臀部を細杖で打つ)や檣楼見張(帆船のみ:マストの頂上の見張臺で長時間謹慎)があります。海兵隊員には陸軍式の懲罰があります。
鞭打 flogging は、ひとつの罪状に就き12回までで、回數は艦長が決めます。複數の罪状が重れば、13回以上となることもあり、24回以上など餘り回數が多いと、何日かに分けて行います。たいだい72打くらいが上限です。軍法會議にかけるとより刑罰が重くなる場合や、艦の名誉のために刑法犯を出したくない時にも使います。罰の執行には一定の形式があります。海兵隊が着劔した銃に實彈を装填して、後檣楼に横隊を組み警備につきます。鼓手が「總員集合」次いで「布達」の軍鼓を打ち鳴らす中を、上甲板艦尾に總員集合し、士官以下乗組生徒までの幹部は正装しています。先任衛兵伍長 boatswain が指揮をとり、衛兵伍長 ship's corporals・衛兵 guards が罪人を取り囲んで、營倉から艦尾甲板に出てきます。軍鼓が鳴り止むと艦長が罪状を読み上げ、鞭の回數を云い渡し、先任衛兵伍長に執行を命令します。艦長によっては短い訓戒を垂れたり、乗組員に異議がないか問う人もいます。異議が出れば罰は延期され、犯罪の再審がなされます。これによって無罪になったり、鞭の回數が減ったり、別の罰になることがあります。執行は罪人を上半身裸にして、格子桁に両手両足を拡げたX字に縛りつけます。誤って舌を噛まないように短い棒状の革切をかませ、海兵隊の軍鼓の合図があると、衛兵伍長が新しい九尾鞭(結目が3箇宛ある9本の枝を備えた鞭)で罪人の背中を打ち、先任衛兵伍長が回數を數えあげます。間隔は1分おきます。13回以上打つ場合は、1ダースごとに別の衛兵伍長が交代して打ちます。終ると鼓手・笛手總出で樂しそうな曲を奏し、總員解散して配置に戻ります。罪人を解放すると、大抵へなへなになっているので、看病夫が治療室に運び込み、看護長が傷跡を消毒して軟膏を塗り、夜に發熱するので病人用の平らな寝臺に寝かせます。翌日から食班に復歸しますが、あまり鞭打回數が多いと、その後も醫務室に通ったり、暫く治療室で暮らします。
大砲縛は鞭打と同じ様式で執行されます。砲身に跨って両腕で抱きつく格好で縛り付けられるので、俗に「掌砲長の娘に接吻」 kiss the gunners dauther と云います。砲を掌砲長が大切にしている娘に喩えてあります。掌砲長は年少兵や乗組生徒の保護を擔當するので、そう云う比喩ができました。下半身裸で臀部を打たれるのですが、これには籐を編んだ細く固い一本鞭を使い、回數は鞭打と同様です。九尾鞭と比べて、負傷の程度は軽く、苦痛も思った程ではありません。帆船を除き、現今の艦艇は甲板上で跨るような砲身が無いので、代わりにベンチや机を使います。乗組生徒は准士官ではなく先任下士待遇なので、懲罰として大砲縛を受ける事がありますが、公開執行は紳士の體裁上これを受けることが無く、艦長室の一畫で執行します。
横静索吊 seized up to the shrouds は、檣楼に上る縄梯子状の静索に大の字に縛り付けて、雨が降ろうが風が吹こうが、それを命じた将校が赦すまで何時間も晒しておくもので、餘りみっとも良くありませんが、鞭打よりはましなので、練習帆船で時折見かけられます。
檣楼見張はメインマストの頂上にある見張臺に晝夜座ったままと云う罰ですが、航行中はひどく揺れるので命綱を巻いて、食うや食わずで柱にしがみ付いていなければならず、本人の疲労甚だしいものがあります。
立派に罰を終えると、箔が付いて仲間から一目置かれるようになります。懲罰は履歴に記載されず、また考課に響くことはありません。

【海軍刑法】
以下の罪があります。ここにある罪は海軍軍人に適用されますが、民間人にも適用されるものがあります。また、ここに無い罪は軍人といえども普通の刑法が適用され、司法省の裁判所で扱われます。
海軍所属の學生生徒、軍属、海軍勤務に服する陸軍軍人にも適用されます。

叛亂罪
    叛亂
        結黨用兵器叛亂(首魁、謀議参與、指揮、諸般職務從事、附和随行)
        叛亂目的結黨軍用物劫掠
    利敵
        軍隊軍用物軍用地交通路利敵交付・損壊
        利敵間諜・敵國間諜幇助
        軍事機密利敵漏泄
        利敵嚮導・地理指示
        司令官降伏利敵強要
        俘虜利敵奪取・逃走幇助
        軍用物軍用地損壊
        艦船軍隊往来妨害
        守地放棄
        軍用物故意缺乏
        虚偽命令通報報告
        造言飛語・敵前叫呼喧躁
        其他利敵行為
        叛亂利敵
擅權罪
    私戰
        外國ニ對シ故無ク戰闘ヲ開始スル
        講和・休戰ヲ知リテ故無ク戰闘ス
    擅ニ艦船軍隊ヲ進退セシム
    命令ヲ待タス故無ク戰闘スル
辱職罪
    指揮官故無ク降伏シ若ハ艦船守地ヲ敵ニ委ル
    敵前指揮官故無ク艦船軍隊ヲ率ヒ逃避ス
    艦船危急時逃避指揮官(敵前、戰時、其他)
    敵船舶拿捕忌避指揮官
    敵前友軍艦船救護放棄指揮官
    指揮官護衛艦船遺棄(敵前、戰時、其他)
    指揮官故無ク守地若ハ配置ノ地ニ就カス又ハ其地ヲ離ル(敵前、戰時、其他)
    艦船覆没指揮官乗組員
        覆滅・破壊
        損壊
    指揮官故無ク出兵要求ヲ肯セス
    危難艦船救護請求回避指揮官
    将校輸送船舶内ニ在テ敵ニ遭遇シ隊兵ヲ率ヒ擅ニ其船舶ヲ退去ス
    部下多衆ノ共同犯罪ノ鎮定ヲ尽サス
    艦船當直将校守兵緊要勤務者故無ク勤務場所ヲ離ル(敵前、戰時・艦船危險時、其他)
    當直将校守兵睡眠又ハ酩酊シ職務ヲ怠ル(敵前、戰時・航海中)
    戰時事變時偵察勤務者虚偽報告・命令通報詐傅
    軍事機密ニ属スル圖書物件ヲ敵ニ委セサル法ヲ蓋サス
    軍用物供給ヲ故無ク缺乏セシム
    健康ヲ害スヘキ飲食物ヲ配給スル
    從軍・危險勤務免脱目的詐欺行為(敵前、戰時、其他)
抗命罪
    單純抗命(敵前、戰時・艦船救護時、其他)
    黨與抗命(敵前、戰時・艦船救護時、其他)
    上官ノ制止ニ從ハス暴行
暴行脅迫殺傷罪(敵前、其他)
    上官傷害暴行脅迫
        單純
        黨與
        用兵器凶器
        黨與用兵器凶器
        致死
    上官殺害
    上官殺害豫備
    守兵暴行脅迫(文民適用)(敵前、其他)
        單純
             黨與
        用兵器凶器
        黨與用兵器凶器
    上官守兵以外ノ海軍軍人ニ對スル暴行脅迫
        單純
        黨與
        用兵器凶器
        黨與用兵器凶器
    多衆聚合暴行脅迫(首魁、指揮、率先、附和随行)
    職権濫用陵虐
侮辱罪
    上官侮辱
        面前侮辱
        公然侮辱
    守兵面前侮辱(文民適用)
逃亡罪(敵前、戰時、其他)
    單純
    黨與
    後發航
    奔敵
軍用物損壊罪
    軍用物焼毀
    露積軍用物焼毀(敵前、其他)
    以激發物破裂損壊
    艦船覆滅破壊
    航空機破壊
    軍用交通路損壊
    軍用物毀棄傷害
掠奪罪(文民適用)
    掠奪
    強姦掠奪
    戰死傷者被服財物塀褫奪
    掠奪褫奪傷害
    掠奪褫奪傷害致死
    強姦
    強姦傷害
    強姦致死
俘虜幇助罪(文民適用)
    俘虜逃亡幇助
        單純
        看守・護送者犯
        逃走具便宜供與
        暴行脅迫
    俘虜奪取
    逃走俘虜蔵匿隠避
違令罪
    詐欺守所通過・守兵制止違背(文民適用)(敵前、戰時、其他)
    兵役免脱目的詐欺行為
    在郷軍人召集免脱目的詐欺行為
    戰時事變時虚偽命令通報報告
    戰時事變時造言飛語(文民適用)
    空砲命令違背
    守兵衛兵故無ク銃砲發射ス
    戰時事變時急呼集不應
    政治關與
    不服從目的結黨

【歴史上の刑罰】
「艦隊引廻」 flogging round the fleet は停泊中の軍艦を順番に回ってそれぞれの艦上で執行するもので、各艦での鞭打回數は、申し渡しの全回數を訪問する艦數で割ったものです。これは餘りみっともないので、廃止されました。
flogging round the fleet

「艦底潜」は、文字通り綱で繋いで艦底を潜らせるのですが、途中で鮫に喰われてしまうことがあるため、廢止されました。
「精神棒」 starting は、衛兵伍長が固くした短い綱索で怠け者や氣合の入っていないノロノロ作業をする者、すぐに起床できない者の肩を随時打つのですが、1809年以来廢止されました。しかし實際には、今も私的懲罰として下士・古参兵がへまをした最下級兵に頻繁に使用し、士官も黙認状態です。下士卒ばかりではなく、士官候補生が後輩の乗組生徒を懲らしめる時にも使います。この時には籐の細杖が使われる事もあります。
「列間鞭打」 gauntlet は、乗組員下士卒が各々先に結び目を拵えた短い綱索を持ち、2列に並び、その間を罪人にゆっくり歩かせて、各員が一打宛背中にお見舞いすると云うものです。これは窃盗犯 theft に適用されましたが、今では餘りみっともないので廢止されています。
「首枷」 cangue は滅多に用いられませんでしたが、涜神行為 swearing のあった時に艦長が命じて懲らしめるものです。首に厚い(3インチ)木板を嵌めて、9から12ポンドの砲丸を附けて生活させます。作業などもこの儘でするので本人は懲りたことでしょう。
判然とした名前が附いていませんが、不潔 dirty な兵は仲間が海水の桶に漬けてタワシでゴシゴシ洗ったり、舷側から吊るして海の中に何度か漬けたりしました。しかし艦艇が高速になり、艦内での定期入浴や衛生教育が徹底するようになると自然に消滅しました。
「圓踊り」 put to the hoop 年少兵が餘り騒いで五月蠅いと、士官は騒いだ子供をまとめて左手を樽の箍(たが)ないし太い金属の索環に数珠繋ぎにして圓を作らせ、右手に燈芯を持たせて、號令一下ぐるぐる廻らせます。士官は目の前にやってきた首謀者や附和随行者と思われる者を細笞で打つと、子供は狼狽してドタドタと走り巡り、周りを囲んだ見物の水兵は笑い轉げます。
嘘吐き liars には、主檣(ほばしら)に吊るし上げて、「嘘吐き、嘘吐き」と皆が囃し立てる間、箒で背中を叩いて、その後1週間は厠掃除當番につけます。


★★衛生★★(準備中)

【傷病と治療・豫防】
壊血病は果汁の配給により解決されましたが、花柳病は根絶できません。軍醫は衛生教育に腐心し、上陸の度に衛生具を無料で配布したり、講習會を開いたり、頻繁に檢査をしたりして、豫防にこれ務めています。

【入浴】
陸上の所轄では炊爨で餘った蒸汽で湯を沸かし浴場を設けて、少なくとも1週間に1度は兵員に入浴させています。また外出の折に風呂屋に行って、のんびりと湯に浸かる事もできます。
ところがフネの上では真水が貴重なので、海水の熱いお湯を帆布で急造した簡易浴槽に満たして大勢をいちどきに露天甲板で入浴させます。真水券という真鍮の札を3枚もらい、大勢で押し合いへし合い湯に浸かって體がふやけるまで温まります。タオルを湯に漬けたりしないように、など規則があって、なかなか五月蝿いのですが、洋上で浸かる湯にはまた格別のものがあると云います。あがると真水券1枚と引換えに真水を大きな洗面器に1杯もらって、これで顔を洗ったり、體を拭いたりします。浴槽の出入りはみな号令で一斉に行動します。洗面器一杯きりで、どうやって全身を洗うのか不思議ですが、これにはいろいろコツがあります。一般的に伝授されているのは、まず海水浴槽からあがったら、石鹸を満遍なく體に塗りつけて、海水湯につけた濡れタオルかブラシでゴシゴシこすります。そうしておいて再び熱い海水を浴びると、石鹸分と浮き出た垢がとれます。海水湯はいくらでもあるので、十分に浴びます。能率のため再び全員を熱い海水浴槽に浸けて大雑把に石鹸分と垢を流すフネもあります。次に真水の湯で濡らしたタオルで體を拭いて海水の塩分を拭います。最後に真水を使うのがコツで、そうしないと海水の塩分が乾いて皮膚が塩鮭みたいになってしまいます。頭を洗うときは真水がたくさん要るので、水兵はほとんどが髪の毛を短く刈り込んでいて、そうすると地肌まできれいに洗えますし、すすぐのも濡れ手拭でごしごしこするだけで済みます。洗面器で呉れる真水湯は3杯きりなので、うまく使い切るように各自それぞれ工夫します。残り湯を取って置いて素早く下着の洗濯までするようになると、ベテラン水兵です。機関科の罐部がボイラーで湯を沸かすのですが、その役得で湯を豊富に使えるので、機関兵はいつも案外こざっぱりとしています。
士官同相當者以上は共同ではありますが食堂ごとに別に浴室を持っており、いつでも熱い海水風呂に入れます。上がり湯として真水の出る蛇口がありますが、節約のため量が決っています。
艦長室には真水だけを使う浴槽があります。

【厠】
トイレは各食堂の区分に従って共同のものが幾つか用意されています。小さいフネでは兵用、士官用と必要最小限の区分しかないところもあります。専用のものを持っているのは艦長だけです。水洗で、常に汲み上げた海水が勢い良く流れます。下士卒用のものは、昔は艦首にありましたが、今は必要に応じてあちこちに設けてあります。こちらは太い溝の中を常に海水が流れており、ベンチのような横長の便座が溝の上に固定されていて、他には扉も何も無いフネが多く、お互いに丸見えです。古代の野外共同トイレを彷彿とさせます。ベンチの向かい側の別の壁面にやはり同じような幅広の溝が横たわっていて、それは小便を流すようにできています。溝の中はいつも海水が勢い良く流れているので、なかなか清潔です。床も大変な勢いで海水が流れる仕組みになっていて、役員の厠番が時折これを流すので、掃除の手間が要りません。面白いのはベンチには、各便座に太いホースが備え付けてあって、栓を操作すると好きなだけ生暖かい海水がでてくる仕組になっていることです。これは全く衛生のためにあるのだそうで、変なところが親切にできていますが、最近のフネでは鐵の冷える処で座りっぱなしや窮屈な姿勢になったままの作業が多く、痔になる者が出てきたので、工夫されたものといいます。また落とし紙の節約も目的らしいと云われています。以前は新聞紙を切ったもを使ったりしていましたが、現在では紙なしでも濟ませられるようになっているそうですから、大変な進歩です。

【害獸害蟲の驅除・掃除・消毒】
フネの中は通風が悪いので、氣を許すと鼠をはじめとし、油虫・蝿・虱・蚤など害獸・害蟲が繁殖します。次々と補給される積荷に混じってくるので、完全に根絶するのは難しく、艦内警察を掌る先任衛兵伍長室では、鼠や蟲をたくさん取ってきた水兵には入湯上陸を與え、衛生の保持に努めています。衣糧長の管理下にある食料庫に跋扈する鼠には、これを捕獲するため、猫が「備品」として飼われており、大きな艦では老若取揃えて何匹も居ます。
掃除も艦の隅々にまで行届くよう計劃が立てられており、うるさ型の副長(運用の責任者)の乗る艦では、何もかも磨かれてピカピカになっており、チリひとつありません。
しかし水雷艇や潜水艦など激務をこなすフネでは掃除の餘裕が無く、乗組員も長期間入浴しないのは当たり前、服も着たきりすずめ、艦長艇長からして髭ボーボーの海賊もどきと云う極端なところがあります。


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